【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜

ルイはそっと左胸に添えてた手で私の頬に触れて、そしてまた、その天然石みたいな瞳から温かなひと雫をポロポロと落とした。


「エミリがいないと泣く事も出来ないボクが、心なんて持っている訳が無い」


今日のルイはやけに人間臭い。そもそも、泣こうという意思が芽生えた時点でルイには自我があるという事なのに。


感情を取り戻しつつある私には、それをハッキリ伝える事が意思の、心のある者への負担になる事にもう気付ける。


「帰りましょうルイ。一緒に。大丈夫。焦らなくてもルイになら分かるようになりますから」


どうして言葉に紡ぐと途端に想いは安っぽくなってしまうのだろうか。


私も同じようにルイの頬に触れて取り戻した微笑みという表情をルイに向けたら、ルイも彼自身の心で作った微笑みを、泣きながら私に向けた。


ああ、ルイはなんて美しい生命体なのだろう。


ルイは自らの意思で私の頬から手を離し、今度は私の小指に小指を絡め、涙を止めない。


「このまま、これを止めたくないんだ。ダメかな?」


嫌ではなかった。繋がった小指から感じるルイの温度が、ずっと昔から知っているような気がして心地よかったから。


ほんの数カ月前に生まれた筈のルイなのに、ずっと一緒に歩んだ身体の一部のようなんて、とことん不思議だ。


さっき燭が言っていた言葉を受け入れられたのは、もしかしたらそんな温もりにどこか以前から気付いていたからかもしれない。