「君以外気付いてる違和感を言うよ。片岡さん、君がお母さんをただ殺害したのなら、この状況は変だと思うんだ」


楠本燭の話し出したその言葉に、左胸がざわりと騒ぎ出す。


「言葉を借りるとして、片岡さんを『少女A』としよう。その少女Aが殺人を犯して、少年法で守られていたとしても、罪は償うだろう?……君がお母さんを殺したのはいつ?禊が終わるには早くないかな?」


私が母を殺めたのは、中学三年生の冬の日。けれども、私が拘束されていた期間は一ヶ月に満たない。それも、留置場ではなく病院だった。


「記憶が混濁していて定かでは無いのですが、私は法的に裁かれた記憶がありません」


「だろうね。君は高校の入学式からずっと俺と同じクラスだったもの」


すっかり冷静になった楠本燭の声に、里佳子や嶋山成も泣き止み、楠本燭の次の言葉を待つ。


「片岡さんとお母さんの間には、きっと何か重大な真実があると俺は思う。そして、嶋山はそれを知っているんじゃないかな?」


楠本燭に見られた嶋山成は、困ったようにへらりと笑うとお手上げのポーズ。


「ひやー、楠本ってば名探偵になれるよ。殆ど当たり。ちょっと違うのは、俺はその真実を人伝に知ってしまったから、片岡の心にある全てを知ってる訳じゃないって感じなんだよね」


『だから俺の口からは言えないんだ』と付け足した嶋山成に、私は左胸のざわざわが強くなる。