彼等や隣のルイを見ても、私には涙が込み上げない。どんな感情と表して良いのかも分からない。


こんな時、普通の人間なら同じように涙を流すのだろうか。


感情が欠落した私は、涙の代わりに口角が緩む。同時に眉毛が下がるのも分かった。


「ん、だよ笑里。お前、その泣きっ面みたいな微笑みヤメロ!余計、こっちが泣けてくる」


「すみません……でも、今の私が持っている感情を表せる顔が、これだけなんです」


皆が私に押し付けた感情を、心を表す顔が、今の私には笑顔しかないんだ。


「取り戻そうよ、君の全てを。俺と、リカちゃんと嶋山と……ルイと。だって、このままじゃいけないよ。おかしいよ」


「楠本君は、何がおかしいと思うのですか……?」


罪を犯した私が普通に生きる方がおかしい筈なのに、どうして、私に温かな世界に生きる術を取り戻せとこの人は言うの?


楠本燭は赤くなった鼻を鳴らしてカーディガンの裾で目を擦り眼鏡をかけると、震える喉を深呼吸で整えた。