【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜

私も腹を括り、再び進行方向へと体を向けて歩き出す。


荒れ果てた墓地は、形だけ存在していて、殆どの人が足を踏み入れていないのだろう。


そんな墓地の一角の小さな、たった二年と少しの間に古びてしまったそれはある。


『片岡愛里』……父の離婚後も、姓を変えなかった一人の女性が眠る場所。


「私は……少女Aです。少年法なんてもので守られた、汚い罪人。ここで眠るのは、少女Aによって永遠の眠りに就いた被害者。私の、母です」


二年と数ヶ月前、自分が生み、そして育てた娘の私に殺された、哀れな女性。


「今でも鮮明に憶えています。私とは違い、いつも明るい笑顔だった母を。そして、その母の首を体重を込めて絞めた感触を」


忘れられるわけがない。忘れてはならない。大切な人を殺した私の手は誰よりも汚い。それを隠して温かなこの場所にはいられない。


「あの日から私は感情を捨てました。罪を犯した私が普通の生活をして良いわけが無い。なのに私は……」


私は、大切にしたい存在をまた作ってしまった。そんな資格は無いのに。