ケーキ入刀も済ませて、歓談の時間。


俺は席を立って、妹の元へ向かった。



「よぉ」と、軽く手を挙げると、

「兄貴はスーツ似合わないね」

と、開口一番にそう言われた。



「おまえはこんな日でもブレないな……」



肩を落とす俺を見て、新郎がクスリと笑う。



妹の旦那は、寡黙な男だった。


必要以上のことは話さず、だからといって話すのが苦手という訳でもなく、話すときには物事の核心をズバリと言い当ててしまうタイプだ。


妹よりも三つ年上の銀行員で、大学時代から付き合っているらしい。


美形と言うほどでもないが、それなりに見られる顔をしていて、おまけに高学歴高収入。


ちゃっかり優良物件を捕まえてきた妹に、母さんは大喜びだった。



おまえって意外と友達多かったんだな、とか、あの余興が面白かった、とか。


そんなくだらない話をしていると、もうそろそろお色直しの時間だと司会が告げて、俺は席に戻った。



新郎新婦のご退場です。皆様、大きな拍手を――。



司会の合図で、花婿と腕を組んだ妹が歩き出そうとした、――ちょうど、そのときだった。