ワケあり彼女に愛のキスを



その視線の強さに困惑しながらも、とりあえずは「こんばんは……」と挨拶してみる。
見た事はないが、このマンションの住人なのかもしれないし、眼差しの強さはもともと持って生まれたもので意識して睨みつけてくるわけではないかもしれない。

そう思いにこりと一応微笑んでもみたけれど……。

返ってこない挨拶と、ギリッと音が聞こえてきそうなほど表情を歪めている女に、舞衣がどうやらただの住人ではないようだと判断する。
恐らく、先週から感じていた視線はこの人だったのだろうと。

ほら、やっぱり優悟の方だったじゃない、と後で言ってやろうと思いながら見ていると、女がようやく口を開く。

「あなた、北川さんの何?」

怒鳴られたわけではない。静かに問われただけなのにビリッと空気に緊張が走った気がした。

何、と言われても答えに迷う。もしも一緒の部屋に入っていくところを見られていないのなら、ただの隣人だとでもしておいた方がこの場は和やかに終わるかもしれない。
それとも、一時的に一緒に住んではいるが従兄妹だとか親戚だとでもしておこうか……。

普段だったらそんな風に誤魔化そうともせずにバカ正直になんでも話すところだが、今回の事は優悟のこれからに関わってくる。
第一、優悟と目の前の女との関係も分からないだけに、下手な事は言えない。

だから答え方に慎重になっていると、待ちきれなかったのか、きつい口調でもう一度「何かって聞いてるんだけど」と答えを催促されてしまい、舞衣が戸惑いながら口を開く。

「えっと……何でもありません」

なかなか答えなかった挙句、返ってきたのがそんな誤魔化す様な言葉だったからか、女は「は?」と眉を寄せる。
また少し目がつり上がった気がした。