ワケあり彼女に愛のキスを



「依存、か……」

夕食後、ソファーに横になった優悟が独り言を呟く。
バスルームからは舞衣が使うシャワーの音が聞こえてきた。

『秀ちゃんの近くにいると気持ちが落ち着くの』
『だから、どんなひどい事されても平気』

真っ直ぐな舞衣の瞳と、しっかりとした声が脳裏に浮かぶ。

言い方は悪いが、もっと明るい方向にバカな女だと思っていた。
大した事ない理由で惚れ込んでしまって、大して考えもせず好きだからとかそんなつまらない理由で悪いループから抜け出せずにいるだけだと思っていたのに。
意外にも事態はもっと深刻のようだった。

タイミングが悪かったといえばそれまでだとも思う。
たまたま舞衣がクラスでいじめを受けていて、その時たまたま誰も助けず、秀一だけが声をかけた。
それだってきっと、秀一にすれば興味本位だとかそういう軽い気持ちだったのだろうと、今の秀一をみれば簡単に想像がつく。

そしてそれをきっと舞衣も分かっていて……分かった上で、それでも秀一の傍がいいと言っている。

秀一がどんな男か分かった上で。

一番助けて欲しい時に手を伸ばしてくれたから。
傍から見たら、たったそれだけの理由でと思うような事だが、本人からしてみれば大きな理由なのだろう。
どんなひどい扱いを受けても、受け入れられるほどに。

……厄介だな。
そう考えてから、一体何が厄介なんだと優悟が顔をしかめた。

別に舞衣をどうこうするつもりなんてないし、ただ部屋を貸しているだけなのだから、舞衣と秀一の関係がどんなでも優悟に直接関係はない。
それなのに厄介だなんて言葉が浮かぶのはおかしい。

舞衣と秀一を離れさせようだなんて考えてはいないのに。