「今日菊池と話したけど、あいつ、おまえが笹田んとこに泊まったかもしれないって言ったら面白がってたけど」
「え……」
「おまえが、鍵とられたあと困って、笹田んとこ行こうか悩んでたけどいいのかって聞いたら、すげぇって笑ってた。
おまえ、そんなヤツが本当に好きなのか?」
本当は、言うつもりなんてなかった。
言ったところでどうせ舞衣はへらっと笑ってそれでもいいと答えるのなんて分かっていたから。
けれど、思わず口をついてしまい、そんな自分にムシャクシャしていると、舞衣が目を伏せ微笑む。
「優悟には分かんないよ」
「なにが」
「ひとりで食べるお弁当がおいしくないとか。教室でひとりぼっちでいる時間がどれだけ長く感じるかとか。
自由行動ってなった時、誰も誘ってくれない寂しさとか」
「そんなもん、学生の頃の話だろ? とっくの昔に終わって……」
「終わらないんだよ」
優悟のため息交じりの言葉を遮った舞衣が、ゆっくりと伏せていた瞳を上げ、視線がぶつかる。
いつも明るさばかりを浮かべている瞳が訴えてくるものが切実に思えて、優悟が思わず言葉を失う。
「終わらないの。またいつそういう目に遭うかって不安が消えない。……今も。
でも秀ちゃんはそんな私を助け出してくれた人だから。
秀ちゃんの近くにいると気持ちが落ち着くの。先生もクラスメートも、何十人もいたのに助けてくれたのは秀ちゃんだけだった」
「でも……」
「秀ちゃんの傍じゃないと、息がうまくできなくなるの」
優悟の声を遮って言った舞衣が、苦しそうに表情を崩し……そして微笑む。
「だから、どんなひどい事されても平気」
最後にそう微笑んだ舞衣に、かける言葉が見つからなかった。



