ワケあり彼女に愛のキスを




玄関を開けると、部屋の中にはもう灯りが灯っていた。
自分が不在の時に第三者をこの部屋に上がらせた事のない優悟にとっては初めての、灯りのついた部屋。
そこに違和感のような、他の何かのような感情を抱いて呆けていると。

キッチンから、エプロンをつけた舞衣が顔を覗かせにこっと笑う。

「おかえり、優悟。ご飯まだだよね?」
「……ああ。なにおまえ、飯作ってたのか?」
「うん。食べるかなーって思って。住まわせてもらってるのに何もしないのは悪いし」
「金ないのに?」

呆れたような顔で笑う優悟に、舞衣がにっと笑い。
そして、「今朝までの私だと思わないでよね」と告げた。

「あ?」
「実はね、CDとか色々売ってきたの。なんとなくずっと持ってたけど、今回こうして家追い出されて結構荷物にもなっちゃったしいいかなって。
中学の時好きだったバンドの限定ジャケットとかもあったから、ちょっといい金額になったんだ」

ふふーと笑う舞衣に、靴を脱いだ優悟は顔をしかめたままだった。

「中学ん時から捨てられないで持ってた大事なCD売って、いくらになった?」
「それがね、聞いて驚け、なんと二万……」
「その振りでその金額でどう驚けって言うんだよ。大体、聞いて驚けなんてフレーズ今の時代誰も使わねーよ。どこのネット販売だ」

はぁ、とため息をついた優悟が舞衣を見る。

「大事なモン売ってまでして、本当に菊池との関係を続けたいのか?」

真面目な瞳で聞く優悟に、舞衣は一瞬驚いた表情を浮かべてからすぐに笑顔になり。
「うん」と頷く。

そんな舞衣を見て、鈍い苛立ちがまた優悟の中で暴れ出す。