「ごめん。優悟が悪いんじゃないのに八つ当たりっていうか……。
本当は分かってるの。優悟は何も悪くなくて、アパート追い出されたのも鍵取られちゃったのも、全部私のせいだって。
なのに無理言って押しかけてメロンパンまで取って……本当にごめんなさい。なんか、不安で落ち着かなくて変なわがままばっか……」
そこまで言った舞衣が、優悟にぺこりと頭を下げる。
「明日には出て行くから。だから、今夜だけ泊めてください」
今まで散々わがままを待ち散らしていたくせに急にしおらしい態度に出たりするから、対応に困る。
目を伏せながらまつ毛を震わせる舞衣は、童顔だからかまるで子供みたいだった。
忘れていたが、舞衣は昨日まで住んでいた部屋を追い出されたのだ。しかも強引に、着の身着のまま。
そんな状況下におかれたら、普通の人間は混乱するのは当然の事。これからどうしようと不安に駆られ他人に気など使えないだろう。
舞衣も……もしかしたらそうだったのだろうかと優悟が頭を下げる姿を見ながらぼんやり思う。
今だってきっと、不安なんだろうと……震える長いまつ毛に思った。
そしてコロコロ変わる表情を元通りにしたくて思わず手を伸ばし……ハっとしてそれを止める。
よくよく考えてみれば舞衣の言っている通りで、優悟は何ひとつ悪くないのだ。慰める必要もない。部屋と夕飯を提供している時点でもう十分すぎる。
だから。
「勝手にしろ」
それだけ言って、さっき取り上げたメロンパンを舞衣の前に置くと。
「いいの? 極上メロンパン……」
「俺はいつでも買えるし。たまには普通のも悪くない」
少し驚いた表情を浮かべていた舞衣が「ありがとう、優悟」と嬉しそうに笑った。



