「それ、俺のだろ」
「え? でも私もメロンパン買ったから」
「おまえのはこっちのノーマルなヤツだろ」
そう言って優悟がメロンパンを差し出すと、舞衣は今食べていたメロンパンのパッケージを見て「〝レモンカスタード入り極上メロンパン〟……」と読み上げた。
「そう。それ俺のだから返せ。食いかけなのは許してやるから」
「どうりでおいしいと思った……ねぇ、半分ことかに……」
「断る。返せ」
渋る舞衣に手を伸ばしメロンパンを奪った優悟に、舞衣が顔をしかめる。
「レディーファーストしてくれたっていいのに。もう。優悟のエセジェントルマン」
「元からジェントルマンなんか気取ってねーし。しかもおまえレディーって感じでもねーだろ。何がレディーファーストだ」
「ちゃんとレディーだもん!」
「そもそもアパート追い出されたおまえにこうして部屋どころか夕飯まで提供してる時点で十分ジェントルマンだろ」
「それは……っ、……そうだけど……」と、舞衣の勢いが、一言話す事にみるみるなくなっていく。
そして、今までの無茶苦茶な言い分や減らず口が嘘のように、しゅんと肩を落とし泣き出しそうな表情を浮かべるから、優悟が眉を寄せる。。
「おまえ……いい大人がこんな事で泣くなよ。別にメロンパンくらいやるから」
「……違う」
「……欲しくねーの?」
「ごめん、違うの」と首を振った舞衣が、優悟を見る。
大きな瞳は悲しそうに歪められていたが、口元には笑みが浮かんでいた。
まるで、必死に微笑んでいるような、そんな顔に優悟が黙っていると舞衣が続ける。



