ワケあり彼女に愛のキスを



「北川さんちって……ここ?」
「ああ」
「すごいね。大きいし、きれい」

優悟の住んでいるマンションを見た舞衣が立ち止まりその外観を見上げた。

15階建ての築二年のマンションは、シックな色合いで優悟も気に入ってる。
1LDKではあるものの、リビングダイニングが合わせて18畳あり広く使えるのも気に入ってる部分のひとつだった。

「泊めてやるから、このマンション内では〝北川さん〟ってやめろ」
「なんで?」
「名字で呼ばれんの、好きじゃねーから」

社会人四年目の優悟がこんな立派なマンションに住めるのは、親が資金援助をしてくれるからだ。
優悟と舞衣、ついでに秀一も働く会社で役員を務めている父親のおかげで、子どもの頃からお金に困った事はなかった。
一緒にいられない分をお金で補って、やんちゃばかりしていた学生時代のケンカもお金で回収。

そんな親に少し嫌気が差した時期もあったものの、実際に一緒に働いてみれば父親のすごさは明白で、優悟も反抗ばかりもしていられなくなった。
名字で呼ばれるのが苦手なのは、そんな親とセットで見られているようで嫌だからだ。

結果を出して上司に褒められても何されても、〝北川〟という名字から父親を意識されている気がして嫌だった。
プライド……とはまた違う気もするが、その類なのかもしれない。

「名字、好きじゃないんだ」と呟いた舞衣は、不思議そうにしながらも優悟を見上げてにこっと笑う。

「うん。分かった。じゃあ……名前なんだっけ?」
「優悟。覚えとけよ。失礼だろ」
「どういう字?」
「優しいに悟る」
「優悟ね。覚えた。私は、舞衣。舞うに衣装の衣だよ」