ワケあり彼女に愛のキスを



「……なんか匂いがする」
「あ? ああ、香水?」

優悟が答えると、舞衣が「えっ」と大げさなほどに驚き見上げた。

「香水つけてるの? 男の人も香水つけたりするの?」
「つけるヤツもいるし、つけないヤツもいるんじゃねーの?」
「でも、秀ちゃんは〝香水なんか男がつけるものじゃない〟って言ってたよ。
私がバレンタインに香水プレゼントしたら、そう言ってすぐ売っちゃってた」
「だから、好きでいいんだよ。つけたくないヤツだっているだろうし、好みでいいんだろ。
つーかおまえ、〝秀ちゃん〟の言う事鵜呑みにしすぎだろ。給料全部預けるとか、部屋の契約とか。挙句、プレゼントしたモノ売られるって相当だろ。
都合よく金持って行かれてるだけだし、ちょっとは疑ったりしねーの?」

舞衣のせいで立ち止まっていた足を進めながら聞く。
一歩遅れて歩き出した舞衣は、きょとんとした顔をして、当然のように「うん」と頷いた。

住宅街に入った道は、人通りが一気に減り静かだった。

「……じゃあ疑え。つーかまずその前に〝秀ちゃん〟から離れろよ。怪我すんのが普通だとかどう考えてもおかしいし、部屋追い出されるのだってありえねーだろ。おまえ、相当ひどい事されてるって自覚あるんだろ?」

優悟の言葉に、舞衣は何かを言おうとして……でも何も言わないまま口を閉じた。
わずかに眉間に寄ったシワに、ぐっと噛みしめられた唇を、優悟が片眉を上げて不思議そうに眺める。

会って一時間。
舞衣が何か言いたい事を我慢してるのを初めて見た気がして、なんだか肩すかしでもくらった気分になった。
なんでも自分勝手に言いたい放題な女だと思ってたのに。

意外な態度を不思議に思いながら、やけに静かな舞衣とマンションまでの道を歩いた。