ワケあり彼女に愛のキスを



「じゃあね、北川さん」

掴んでいたワイシャツを離した舞衣が、優悟を追い越し書庫室を出て行く。
ずっと掴まれていたせいで、急に軽くなった肩に違和感を感じ……ふわふわと揺れる舞衣の髪を眺めながら、優悟が顔を歪める。

でもここで舞衣を止めたら確実に泊めろと言ってくるのは目に見えているし、ストーカー女なんて絶対に泊めたくない。
自分の事を真剣に好きだと言ってくる女も御免だが、他の男に一途な女だって御免だ。なんのメリットもない。

大体、部屋に誰かを泊める事自体が嫌いで、関係を持った女でさえ終わったら帰すくらいなのだから、関係を持つわけでもない舞衣を泊めるなんてまずありえない。

泊めたところで金目のものを盗まれるだとかそういった心配は舞衣を見る限りは皆無そうではあるものの……いや、ない。大体、そもそも泊めてやる理由がない。
あまりに不憫すぎてうっかり罪悪感が浮かび始めてはいるものの、こんなものは一時的であってすぐに消えるハズだ。
そもそも自分はいいヤツでもなんでもないのだから。

頭の中でそう確認し、止めない方が身のためだと結論を出し、舞衣とは反対の方向に一歩足を踏み出して……ぐっとその場に踏みとどまった。

頭の中には、〝会計士〟〝大家〟〝笹田〟と色んなワードが舞衣の困り顔と一緒にグルグルと回る。うっとうしいほどに。
「あー……」と、苛立ちを吐き出す様な声をもらし、むしゃくしゃする頭をかきむしるようにしながら、優悟が勢いよく振り返り……そして舞衣の名前を呼んだ。

「……城ノ内舞衣」
「え……なに?」

少し驚いた丸い瞳が、優悟を捕える。

「今日だけだからな。今日だけ、泊めてやる」

捨て犬みたいな、しゅんとしていた顔をパァっと輝かせて、舞衣がふわりと笑った。