ワケあり彼女に愛のキスを



それこそ、優悟が言っていた〝現実〟に違いないのに。
矛盾しているのは自分でも分かっていた。それでも舞衣の目を覆おうとしたのがなぜかと問われれば。

「仕方ねーだろ。おまえが傷つくと思ったら、咄嗟にそうしてたんだから。見たくなかったんだよ。おまえがショック受けてるとこなんか」

まだ濡れた髪に手をくしゃっと差し入れながら言う優悟に、舞衣が驚きから顔を歪め……それからキュッと口を引き結ぶ。
「なにそれ……」とこぼすように一言だけ言った後、胸が窮屈に締め付けられ、言葉が続かなくなった。

それでも、苦しくなった胸を誤魔化すように「女の子、散々泣かしてきたくせに」と言うと、優悟は、は?と聞こえてきそうに歪めた顔で舞衣を見た。

「他の女なんかどうなろうが知らねーよ」
「だったら……」
「でも、おまえが傷ついて泣くのは見たくない」

当たり前だろといった風に言う優悟に、舞衣が今度こそ言葉を失う。

誤魔化そうとしていた、締め付けられたままの胸が、また少し苦しくなる。その理由が、優悟の想いだと気付いて……舞衣がぐっと奥歯を食いしばった。

秀一との関係に覚えた不安に、弱気になったのは優悟のせいだと思っていた自分。
八つ当たりだと分かりながらも、優悟のせいにしていたのに……。

それなのに優悟は、傷つけたくないからと、ショックを受けないようにと秀一を隠そうとしてくれていて。
あんなに現実を見ろと口うるさく言っていたくせに、いざとなったら咄嗟の判断でショックから守ってくれようとしていて……。

そんな優悟の優しさを前に、心の中で八つ当たりしていた自分に情けなくなり……どうしてこんな自分なんかに、と思うと、涙が浮かんだ。

「私は、馬鹿みたいに秀ちゃんが好きなんだよ……?」

瞳いっぱいに涙をにじませる舞衣をじっと見ながら、優悟が「知ってる」と答える。

オレンジ色のダウンライトが照らす部屋。
舞衣の瞳に浮かんだ涙がキラキラと光っていた。