「だからって会社まで来るなよなー。誰がおまえに噂の事教えたんだか知らないけど、会社の女との事は本当にただの噂なんだって。おまえが心配するような事じゃない」
ピタッと……地面に足が張り付いたように動かなくなった舞衣に、優悟がチッと舌打ちして表情を崩す。
そしてゆっくりと舞衣の様子を確認するために振り向くと……そこには、秀一と彼女の様子を見て微動だにしない舞衣の姿があった。
いつも感情をすべて顔に表す舞衣の、初めて見る無表情な横顔に……優悟の胸が静かに軋んだ。
舞衣と優悟がいる百メートルほど先では、秀一が彼女の肩を抱いて歩いているところだった。
どうやら、美川との噂を何かしらのルートで知った彼女が、秀一を会社前で待ち伏せしていたようで。会社のすぐ近くにあるカフェに入り、弁解でもしていたのだろう。
優悟が見たのは、カフェから彼女の肩を抱きヘラヘラとした笑みを浮かべて出てきた秀一の姿だった。
だから、咄嗟に舞衣からそれを隠そうとしたわけだが……。
結局その様子を目の当たりにしてしまった舞衣が見つめる先で、ふたりは身を寄せ合いながら歩いて行く。
どんどんと距離が離れていくため会話の内容までは聞こえないが、もう彼女の方も怒っていないようで険悪だとかそんなではなく、普通のカップルといった雰囲気のふたりを舞衣がただ黙って眺める。
そして、数分が経ち、その姿が見えなくなっても尚も動けないでいる舞衣の腕を優悟が離し、今度は手を握ると、ゆっくりと歩き出す。
さほど抵抗せずにつれられるようにして歩き出した舞衣を確認しながら、舞衣のペースに合わせてゆっくりと歩く。
俯く瞳が浮かべるのは、悲しみからの涙なのか……それとも、ショックのあまり涙さえこぼせないのか。
それを確認するのは嫌で、俯く舞衣の手を握り、優悟が前だけを向いてマンションまでの道を歩いた。



