ワケあり彼女に愛のキスを



「ち、違う……っ!」
「まぁ、気にしてくれんのはいいけど、困るまで考えるなよ」

そう言い、微笑んだ優悟が「さてと」と椅子から立ち上がり、「風呂掃除してくる」と背伸びをしてから歩き出す。
そんな様子をじっと見つめながら「泡、つけないようにね」と注意をすると、優悟は「おまえじゃねーよ」と軽く笑ってからお風呂に繋がるドアを開けた。

掃除をする優悟が使っているシャワーの音が届くリビング。
ざわざわと揺れたままの胸が煩わしくて、舞衣がひとり眉を寄せていた。


受付の仕事のひとつに、会議室の掃除がある。

一日に頼まれるお茶出しの回数は十回程度で、掃除も同じ回数だ。他にも応接室や会議室までの案内などもあるため、受付として座っている時よりも裏方の方が忙しい。

受付として常に座っているふたりと、裏方の三人は、週替わりで回していて、今週舞衣は裏方の週だった。
四人程度しか座れない広さの応接室から、二十人強座れる会議室まで、同時に使用される事はザラで、たかがお茶出しや書類配りと言っても、それなりに忙しい。

舞衣の勤める会社では会議ごとに、長机を大きく四角く並べたり、学校の机のように何列もに並べたりと違うため、机や椅子の移動も合わせるとなかなかの仕事量だ。

ひとつの会議と次の会議の間の時間は、短くて一時間。前の会議が押した時などは三人がかりでとりかかりやっとという事も少なくない。
そして、出すお茶は、顧客の好みに合わせる事も多いため、この顧客にはこれというメニュー表の暗記は受付という仕事をする上で避けては通れない。
舞衣も、顧客の顔と飲み物を繋ぎ合わせて暗記するのに相当苦労したのが数年前の事だった。