彼女は森山の顔を見るなり、

「どうしたの、元気なさそうね?」

 と声を掛けて来た。

「そんなふうに見えます?」

「森山君て、表情に出やすいもん」

「何だか僕だけが熱くなってるみたいで……」

「どういう意味?私達は真剣に取り組んでいないって事?」

「あ、いや、うちの人達の事じゃなくて、木山の事なんです」

「木山が?」

「ええ……面会から帰って来る途中で、長瀬さんにも話したんですけど、当事者本人にまるで戦う意志が見られないんですよ」

「控訴の意志を確認出来なかったのね?」

「ええ」

「控訴の申し立て自体は、被告本人の意志に関係無く、弁護側で手続きをする事は出来るけど……」

「判ってます。ですが、今回の裁判は無実を主張する訳で、死刑を無期にとか、無期を有期刑に減刑するのとはまるで別な戦いになります。本人自身に最後迄戦うんだという意志が無いと、勝てるものも勝てなくなる」

「森山君の苛立ちも判らない事も無いけど……。
 木山は判決前に自殺を図ってる訳じゃない、だからメンタルな部分でまだ冷静に判断出来てないのかもよ」

「どうなのかなぁ……」

「明日の予定は?」

「午前中にもう一度木山に会おうかなって……」

「なら丁度良かったわ。私も、明日拘置所に行く予定だったから、一緒に会ってみる」

「男の僕が話すより、野間口さんのような美人弁護士が相手なら多少は心を開いてくれるかも」

「今のはセクハラ発言に引っ掛かるわよ」

「被告人森山篤は、野間口妙子さんに対し何らセクハラ行為に及んではおりません。何故なら、美人弁護士という発言は、被告人の本心から出た偽ざる言葉だからであります」

 二人の間に笑い声が出た。

 野間口妙子は、森山のこんなおどけた姿を見たのは初めてであった。

「どう、多少は落ち込んだ気持ちもアップしたかな?」

「お蔭さまで」

「よし、じゃあ、明日の作戦会議を兼ねて『とり安』で一杯いく?」

「了解です!」

「割り勘だからね」