「被告人御本人からはまだ専任された訳ではありませんが、そのつもりです」

「そうですか。で、今日はどういった御用件で?」

「今日のところは、先ず御挨拶と、一、二点程お伺いしたい事がございまして」

「何でしょう?一応初めに断っておきますが、事件関係については、情報開示の原則に法り、そちらで全て調べられるようになってます。それ以外の事となりますと、守秘義務の関係もありますから、お話し出来ない場合もありますので承知して下さい」

 いきなり拒絶の姿勢を見せて来た。

 体裁のいい尤もらしい言葉だが、よく聞けば裁判で提出された捜査資料以外の話しは一切しないと拒んでいるのと一緒だ。

「勿論、承知しております。これだけ伺ったら、今日は失礼致しますので。森刑事が、木山悟が光が丘の事件の犯人じゃないかと睨んだ決め手は何でしたか?」

「幾つかありましたが、どれもが確実な証拠とするには弱かったんです。ですが、当日、容疑者と思われる不審人物が複数の住民に目撃されてましてね、その中の一人がはっきりと木山だと証言してくれたんです。そこから判断して行くと、全ての状況証拠が木山に結び着いたんですよ」

「成る程。面通しの証言でという事ですね?」

「そうです。じゃあ、そろそろ宜しいですか?
 これから捜査の関係で出なきゃならないんで」

「すいません、お時間取らせてしまい……あのぉ」

 椅子から立ち上がりかけた森警部補は、苛立ちの様子をはっきりと見せた。

「まだ何か?」

「もし、控訴審で証人喚問を受けたら、出て頂けますよね?」

「そりゃ、正式に喚問があれば応じますよ……」

「ありがとうございました。じゃあ、その日を楽しみにしてます」

 森山の言い方が完全に森警部補の神経を逆なでたようだ。

 自分が座っていた椅子を乱暴にスチール机の下に放り込んだ。