森山は事務所には戻らず、その足で杉並警察へと向かった。

 木山悟の取調べを担当した刑事に会う為にである。

 午前中に電話を入れたところ、予想外に会って貰える事になった。九分九厘、会ってはくれないだろうと思っていたからだ。

 指定された時間の10分前に着いた。

 一階の受付で来意を告げると、三階の刑事部屋に居るという。

 警察署独特の、他人を寄せ付けない空気が、此処では余り感じなかった。多分、建物の雰囲気のせいかも知れない。改築されて間もないからか。

 内部全体が明るい色で統一され、近代的なオフィスそのものといった感じだ。惜しむらくは、やたらと貼ってある防犯ポスターが、やや美観を損ねている。

 捜査一課の札を見つけ、刑事部屋へ入る。緊張の余り、尿意を催して来た。

 来る前にしておけばよかったと悔やんだが、今日はそう長い話しにならないだろうから、我慢出来るだろう。

 面会相手は直ぐにやって来た。

 想像していた通り、厳ついいかにも刑事といったタイプだ。

 ワイシャツにネクタイ、スーツ……

 服装も刑事そのもの。物腰から威圧感を感じる。

「どうぞこちらへ」

 通されたのは、被疑者を取調べる小部屋だった。

 さらなる圧迫感を感じた。

 女性刑事がコーヒーを持って来てくれたが、とても味わって飲める雰囲気では無い。

 気の弱い人間がこういった雰囲気の中、長時間取調べを受けたら、確かにやっていない事もやりましたと言わされそうだ。

 しかも、こんな厳つい刑事に睨まれ、怒鳴りつけられたら……

「私が木山悟の事件を担当しました森です」

「申し遅れました、浅野弁護士事務所の森山といいます」

 名刺を差し出すと、森警部補は森山の顔とそれを見比べるようにしてから、自分の名刺を出して来た。

「森山さんが控訴審の弁護に?」

 話し方に何処か見下したような感じが漂っていた。