法廷から待機用の独居に戻ると、直ぐさま面会だと告げられた。

 肩にフケを乗せた風采の上がらぬ顔を思い出した。

 面会室に入ると、知らない人間が待っていた。

 今風の顔立ちをした若い男だ。

 見覚えが全く無かった。

 当たり前だ。

 初対面だったのだから。

「私は、弁護士の森山といいます。実は、木山さんの今後についてお話しさせて貰おうと思いまして」

 私は少々面食らった。

「はあ……」

「今回の判決に対し、多分控訴をお考えだと思います。宜しければ、その弁護を私の方でさせて頂ければと。費用の方は、一切ご心配入りません。自白強要の無罪を争う訳ですから、やはり国選の弁護人ではなかなか思うような弁護活動が望めません。私共には、支援団体の協力もあります」

「どうして私の弁護をと?」

「はい、偶然ですが、木山さんが冤罪を争っているのを知りました。そこで、関係書類を隈なく拝見致しました。これは間違い無く無罪を勝ち取れる裁判です。いきなり会って頂いて、直ぐこの場でご返事をと言われても、簡単に決めかねるかと思います。名刺を差し入れしておきますのでご連絡を下さい。それと、栄養を付けないと。
 拘置所の方に、缶詰とか食べ物の差し入れが届くよう手配してありますから。先は長いですが、頑張りましょう!」

 森山と名乗った弁護士は、一方的にそう言って、面会室を出て行った。

 私は突然の面会者に、心を掻き乱された。

 乱れた気持ちは拘置所に戻ってからも続き、届けられた差し入れのバナナやオレンジ、幾つもの缶詰と、小さな一枚の名刺によってより募らされた。