白紙の用紙に書き埋めた罪名は、五件の空き巣と三件の車上荒らし、そして一件の引ったくりだった。

 三枚の用紙に書き終えた私は、ボールペンを置き、目の前の煙草に手を延ばした。

「終わったのか?」

 捜査三係のキャップが組んでいた足を直し、やや凄みを浮かべた眼差しで見つめて来た。

 何時もはそういう眼差しとかを見せない彼の変化に、私は本能的に身構えた。

「は、はい」

 私から引ったくるように上申書を取った。

 ざっと目を通した刑事は、それ迄以上に険しい眼差しをし、二度ばかりそれを読み直した。

「木山、本当にこれで全部なんだな?」

「ええ……」

「……」

 沈黙がしばし続いた。

 ふうという溜め息をつく刑事……

 何故か妙な緊張感を感じる私……

「お前、八月の九日は何をしていた?」

「え?」

「これに書いてあるヤマの日付や場所から察すると、八月九日近辺は都内に居たよな?」

 私はその日の事を思い出そうと、記憶の引き出しを全て引っ張り出した。

「思い出せないか?」

「思い出すも何も、別にその日は……」

 私が言い終わらないうちに、

「練馬でノビをやったんじゃねえのか?」

 ノビ……忍び込むという言葉を縮めた隠語で、空き巣の事を言う。

 練馬には土地勘など無く、ヤマを踏むも何も私は生まれてこの方、足を踏み入れた事は無かった。

 私は何度も否定した。否定の度合いに比例して、刑事の口調は厳しさを増して行く。

「思い出せない都合でもあんのか?」

「だから何べんも言ってるように、練馬なんかに行った事は一度も無いって言ってるでしょ!」

 私の口調もきつくなり、反抗的な色合いを見せ出した。

「ほう、開き直りか。まあ、いい。思い出す迄、じっくり付き合ってやるぞ」

 重苦しい空気を破るかのように取調室の扉が開き、初めて見る中年の刑事が部屋に入って来た。

「まだ落ちてないようだな……」

 その中年の刑事が独り言のように呟く。

「ヤマがヤマだから、そう簡単にはいかねえか……」

 気になるような物言いをその刑事はした。