自白……供述調書

 正月休み明け早々、浅野は頭を悩ませていた。

 若い弁護士の一人が、ある事件の裁判に関してのリポートを提出して来たのだ。

 その事件は、以前に別な弁護士に調査させた事のあるもので、特に興味を持てそうな報告では無かったからそのままになっている。

 若い弁護士に有りがちな理想を振り回して熱弁を奮っていたが、余りにもしつこく迫るものだから、つい判ったと返事をしてしまった。

 判ったとその時は言ったものの、じゃあ具体的にどうするかとは言っていない。

 言える訳が無い。

 現段階では、自分も含め、動ける弁護士は一人も居ない。

 死刑求刑の冤罪となれば、結審する迄かなりの時間を要する。検察側にしても、負けるかも知れないという起訴はしない。余程、杜撰な調べでなければだ。

 若い弁護士は、その事件がそうだと言う。

 絶対に勝てますと力説していた。

 机の上に置かれたリポートは、ざっと見ても二百、いや三百頁分位ありそうだ。

 熱心さは買える。しかし、現実にそれを担当するとしても、費用の問題がある。裁判が長引けば、その費用は比例して行く。だが費用ばかり気にしては若い弁護士の成長も望めない。熱意を削いでしまえば伸びる人材も成長が止まる。弁護士として場数を踏ます意味で、利益の無い国選の依頼を受けるのはその為だ。

 浅野の事務所位に依頼が多ければ、何も国選の仕事など受けなくとも良いのだが、人材育成と先行投資の意味もあって引き受けたりしているのだ。

 そう思いつつ、一人難しい表情をしていると、古株の事務員である羽村が声を掛けて来た。

「先生、どうかされましたか?」

「いや、何でも無いんだ。そうだ、ところで今うちで扱ってる案件で、片が付きそうな見込みのやつはあるかね?」

「いえ、当分は……何か新しい依頼でも?」

「ではないが、じゃあ皆手一杯か……」

「森山君は、初期の下調べとか終わってますから空いてますよ」

「そうか、やっぱり彼しか空いてないか……」

 浅野は、さっき迄熱い口調で迫って来た森山の顔を思い浮かべた。