「あいつ、担当に聞いたら野上さんの言ってた通り、婦女暴行で訴えられてたらしいですよ」

「だろ、言った通りじゃねえか」

 噂の主は検事調べで朝から検察庁だ。

 留置場でする事無しにゴロゴロしていた私達にとって、彼の存在は恰好の暇潰しだ。そんなところへ、

「17番、調べだ」

 17番とは、留置場に於ける私の称呼番号である。

「オッサン、調べかあ、いいなあ。担当さん、俺の係りにも調べ出して貰うように言ってよ」

「21番だな、一応伝えて置くよ」

 留置場の出入口で手錠を掛けられ、腰に縄を打たれる。扉が開き、腰縄を私の担当刑事が受け取る。

 二人の刑事の顔が、心無しか強張っているように感じた。

 刑事部屋を横切り、何時もの取調室に入る。

 手錠が外され、椅子に座る。

 机の上に紙コップに並々と注がれたコーヒーとマイルドセブンが置いてあった。

 若い刑事が、数枚の白紙の用紙を持って来た。

「ライターが無いな。ほれ、一服しろ」

 刑事がライターの火を差し出して来た。

 マイルドセブンを一本抜いた。

「ありがとうございます」

「甘い物は好きか?」

「はい、頂きます」

 暫くすると担当の主任刑事が取調室に入って来た。

「悪いがドアを閉めてくれ」

 取調室の扉を閉められたのは初めての事だ。

「木山、今日は本件以外の事件について聞くから。判ってると思うが、今更変に隠しだてしたりすると、後々自分の不利益になるからな。時間はたっぷりあるから、ゆっくり思い出して、この紙に全部書いてくれ」

 差し出された白紙の用紙は、自ら犯した事件のあらましを書く為のもので、これを上申書という。

 時間はたっぷりある……

 何と無く違和感を感じつつも、私は白紙の上に、ボールペンで自分が犯した罪の数々を書き連ね始めた。