自白……供述調書

「ええ、では……」

 検事が立ち上がり、手にした書類に目を落としながら読み始めた。

「被告人木山悟は、平成20年8月9日午後9時頃、東京都練馬区光が丘〇丁目〇番地アネックスパレス302号室に盗みを働く目的を持って、同マンションのベランダ側より侵入、同室内で寝ていた佐山芳子さんを台所にあった包丁で顔面及び胸部を刺し、死に至らしめ、被害者佐山芳子さんの死亡を確認後、同室内を物色し、被害者所有の現金三万円余りを奪ったものであります。
 その犯行は残忍冷酷極まりないもので、特筆すべき点は、包丁で数度に渡って刺したのみならず、顔面及び頭部を床や壁等に幾度も打ち付け暴行を加えております。
 鋭利な刃物で刺しただけではなく、このような暴力行為を働いた事は、被告人の残虐さを如実に表しております。
 更に、被告人は、事件の反省どころか、検察側の調べに対し当初の供述は警察官の自白の強要だったと虚偽の証言を繰り返したのであります。
 これは、強盗殺人という重犯罪を犯した事で、重い罰を受けると考えた被告人が、罪を逃れんとする為のものである事は、先に自供した供述調書と状況証拠を照らし合わせた結果、明白であると断言致します。
 その後も、本法廷に於いて、一切の反省を見せずひたすら冤罪であると証言致しますは、同情の一点も持ち得ないものであります。しかも、被告人は今回の事件を犯す前後、数度に渡り窃盗をし、その金で遊興する生活を続けておりました。又、過去の犯罪歴をみましても、更正の意欲は全く見られず、社会にこのような悪質危険極まりない重犯罪人を野放しにする事は、更なる第二、第三の犠牲者を産む可能性が極めて大である事は明白であります。
 未来ある若い被害者の尊い命を奪い、その家族に深い悲しみを与えた事を思いますと、情状酌量の余地は無く、よって、刑法第240条強盗殺人罪をもって、被告人木山悟には極刑を与えるべきと判断し求刑……死刑を申し渡すものと致します」

 検事の淀みない声が、まるで山彦のようだった……