自白……供述調書

「はい……本裁判におきまして、検察側は、一貫して被告人を強盗殺人事件の犯人として裁こうとされておりました。しかし、被告人は、その事件に関しては検事調べの当初から一切関与していない旨を述べておりました。起訴事実に於ける強盗殺人罪は、警察側が事件解決を急ぐあまりに、先走った誤認逮捕である事を改めて主張させて頂くものであります。
 従来より、警察、検察側による自白偏重主義が産んだ冤罪である事は、警察での供述調書を吟味して読めば、誰の目にもはっきりと判るものであります。偶然、窃盗未遂と住居侵入の現行犯で逮捕拘留されておりました被告人と、かかる事件の容疑者が酷似しているという目撃証言だけを頼みとし、度重なる苛酷な取調べによって自白を強要した事は誠に遺憾であります。
 よって、本法廷に於いて裁かれるべき被告人の罪状は、強盗殺人罪ではなく、刑法第130条住居侵入罪及び刑法第235条窃盗罪のみであり、しかも窃盗罪に関しては被告人本人から上申書にて、未解決の窃盗事件を告白したものでありますから、充分に情状酌量を願えるものと思います」

「弁護人、最終弁論は以上で宜しいですか?」

「はい、結構であります」

 弁護士の最後の言葉に、私は深い絶望感を抱いた。

 裁判官自ら、もういいのかと促しているのである。

 一日中掛けても構わないから、もっと……

 声を出せるものならば、私はそう叫んだであろう。

「では、検察官どうぞ」

 それ迄よりは、幾分緊張した面持ちで検事が立ち上がった。