自白……供述調書

 12月20日 雨

 午前8時。

 灰色の押送バスは東京拘置所の正面ゲートを出た。

 私が乗ったバスには、十二名の刑務官と十人の被告人が乗った。

 小一時間ばかりで霞ヶ関の東京地方裁判所に到着。

 建物の地下にある同行室で待機。

 特に問題の無い者達は雑居の待機室へ。

 私は独居で待機させられた。

 定刻の十分前、刑務官二人に連行され、法廷へと向かう。

 前日より一睡もしていなかった私だったが、長く不眠が続いていたから特にどうという事は無かった。

 あれ程この日を迎える事に恐怖を抱いていた筈なのに、何故か気持ちは平静さを保っていた。

 東京地方裁判所703号法廷。

 被告人出入り口の扉に近付くと、背を向けるようにして壁と向かい合わせにさせられる。

 暫くすると、法廷内から物音が聞こえ中から公判を終えた被告人が出て来た。

 その被告人が廊下を曲がり、完全に見えなくなったのを見計らって、私は中へ入った。

 傍聴席には十人ばかりの人間が居た。入廷して来た私に視線が集まる。

 裁判長席から見て左側、出入り口から直ぐの所に弁護人席があり、その前の長椅子が被告人席だ。

 弁護士はまだ来ていなかった。

 反対側、被告人席からは正面になる席が検察側。

 公判担当検事は既に座っていて、少しも表情を変えず、じっと私を見つめていた。

 暫くして弁護士が入って来た。

 一礼した弁護士は、紫色の袱紗を解き、公判資料を机に置く。

 ほぼ同じくして裁判長が入廷して来た。

 席に座ると、用意されていた公判資料の表紙を開いた。

「それでは只今より開廷致します。被告人、前へ」

 重々しい声が静かな法廷内に流れた。

 何度となく体験した光景。

 過去何回となく繰り返された動作。

「それでは弁護人最終弁論を」