自白……供述調書

 以来、栗田は自分の職業というものに対し何かしら考えるようになった。

 意味合いを持ちたいと思ったり、時には青臭い理想論を振りかざしてみた事もあった。

 聖書や宗教に関する書物を読むようにもなった。

 一方で、毎日何十人と送られて来る犯罪者達を目の当たりにし、言葉では説明出来ない憤りも感じていた。

 数ヶ月後、部長に昇進した栗田に新しい職務が言い渡された。

 死刑囚や、重犯罪人、要監視人物ばかりを収容する舎房の担当。

 それが新しい仕事になった。

 最初の二ヶ月で白髪が増え、半年後にはストレスで胃に穴が開いた。

 ある時、死刑執行の立ち会いで隣同士になった刑務官と職員食堂で一緒になった。

 職員数の多い東京拘置所だからとはいえ、ここ迄顔を会わす事が無かったというのも珍しい。

 どちらからとも無くあの日の話しになった。

「あれ以来、いろんな事を考えてしまって……」

 そう言う栗田に、その刑務官はこう答えた。

「私は、家族代々が刑務官でしてね。あの日、官舎に帰って話しをしたんです。すると、祖父が『俺も二回やらされた事があった』て話し出して……今迄一度もそんな話しした事無いんですよ。でね、あの死刑囚の話しをしたんです……」

 栗田は、笑顔で刑場に消えた死刑囚の顔を思い起こした。

「その死刑囚の舎房担当は誰だい?て聞いて、こう言ったんです。
 ……心安らかに償いの場に赴けるよう日々真摯に接して上げたからこそ、その死刑囚は笑って絞首台に進めたんだ。刑務官はかくあるべきだな、て」

 栗田はその話しを聞き、目が覚める思いになった。

 自分達の職務というものは、受刑者や被告が、きちんと己の罪と向き合い、そして心安らかに償いの場に行けるようにしてやる事なのだと知ったのである。

 木山に伝えた言葉は、この時以来の偽ざる本心であった。