自白……供述調書

 栗田は、どうしてもっと違う話しをしてやれなかったのだろかと後悔していた。

 それ以上に、1357番の話しを聞いてやれば、という思いも抱いた。

 刑務官を拝命して二十年近くになる。東京拘置所には通算で十年近く勤務している。

 大学を卒業し、司法試験を受けた。一度や二度の受験ではなかなか受からない難関である。

 栗田も落ちた。

 浪人出来る状況では無かったから、親戚のツテを頼って刑務官になった。

 特に矯正教育に関心があった訳では無い。その辺は、大部分の刑務官と変わらない。

 この職種は縁故採用が多い。付き合いも刑務官同士になり、その家族も同様だ。だからか、世界が狭い。

 見ているものは、一年三百六十五日犯罪者。

 四日に一回は二十四時間勤務。

 舎房担当や刑務所での工場担当になれば、多少定期的な休みもあるが、それでも勤務内容は苛烈だ。

 六十歳の定年を迎えた途端、ポックリと逝ってしまう者が少なく無い。

 最近は、刑務官になって四、五年で退職して行く者が増えた。

 刑務官の多くは、体育会系の繋がりで入って来る。柔道や剣道が主だ。

 栗田は体育会系では無いが、刑務官になると、一応何かしらの武術をやらされる。ノリは完全に体育会系ノリだから、上下関係は物凄い。

 最近の若者は、その点でも馴染めず退職して行くが、もう一つは職場環境にある。

 仕事そのものに夢を見出だせない。

 一癖も二癖もある犯罪者相手に四六時中囲まれた環境に居ると、余程強靭な心がなけれは勤まるものではない。

 刑務官としての威厳を保ちつつ、それでいて真摯に人間として接する……

 理想だ。

 そうあればいいと栗田も思っているが、現実にはなかなか出来ない。

 旧舎の担当に任命される前は、死刑の確定囚や、重犯罪人を主に収容していた舎房の担当を一年やっていた。

 その前は警備隊に居た。