自白……供述調書

「国も漸くその辺の矛盾や不公平さに気付いたようだよ。まだ決まった訳じゃないが、これ迄は起訴後に国選弁護人を選任していたのが、逮捕されて直ぐに選任出来るようになるそうだ。多分、裁判員制度との絡みもあるのじゃないかな」

「そんなもん、幾ら変わったって、警察の取調べが昔のままじゃ変わりはしないよ」

「木山、変わる事、変えて行く事、これは大変な労力がいる事なんだ。お前も知っての通り、拘置所や刑務所も今様々な指摘を受けて変革の時期にある」

「名刑(名古屋刑務所)の事でしょ」

「あれは特殊な事例だが、似たような事は我々の場合でも有り得るんだ」

 刑務官から、これ程真剣な眼差しを見せられた事は無かった。

 栗田は、声を荒げるでも、張り上げるでもなく、淡々とした口調ながらも、その真剣な眼差しで私に訴え掛けて来た。

「俺達刑務官は、人の罪を裁いたりとか、罰するという立場ではない。かといって、矯正教育が使命だなんて事も俺は思っていない。そんなもの、俺から言わせれば驕りだ。俺達の役目は、罪を犯した者が、その罪を償う為の手助けなんだ」

「……」

「裁判の間は、とかく不安が募る。先が見えないからな。俺達はそれを充分に理解してやらねばならない。取り除ける不安ならば、取り除いてやり、心を鎮めた状態で裁判を受けて貰う。刑が確定し、刑務所へ移れば、今度は無事に社会へ戻って貰う為の手助けをしなきゃならない……」

「担当さん、そんな難しい話しは今の俺には正直どうでもいい事なんだ。俺が今抱えてるものをあんたが代わりに抱えられる訳じゃないだろ?
 仮に、担当さんが気を使って俺の不安な気持ちを和らげてくれたとしても、現実に打たれる刑は変わらないさ。確かに多少はこうして話しが出来て、幾分落ち着きはしたけど、変わらないさ……何もね」

「……本当はこういう話しをするつもりでは無かったんだが、まあ、一審の判決で全てが決まりという訳ではない。長い付き合いになると思うから、何かあったら遠慮無く申し出てくれ。話し位だったら何時でも聞いてやる」