「1357番の様子はどうだ?」

 旧舎独居の担当になったばかりの栗田が、夜勤担当の若い職員に声を掛けた。

「はい、保護房に移って少し落ち着いたようです」

「そうか」

 他に何かを聞きたがっていた感じだったが、栗田はそのまま職員待機室へと消えた。

 待機室のソファにもたれながら、彼は木山の動静報告書のページを捲った。

 動静報告書。

 施設に移送されてからの日頃の状況が記されたファイルである。

 一般の被告人や受刑者の場合は、簡単に性格や普段の言動位しか書き込まれていないが、思想犯や、重犯罪者の場合となると毎日の言動が記録されて行く。

 食べた食事の量から始まり、排便の回数、面会の有無、舎房内での動静全般、睡眠量、入浴、運動……

 とにかく全ての事がそこに記される。

 入所以来の動静が事細かく書かれたそれをじっと見つめていた栗田は、新たなページに今日の日付を書き、所感の欄にペンを走らせた。

『本日より担当職員を命ぜられる。

 申し送り事項の1357番に対する動静観察であるが、これ迄の記録を読み進むにあたり、従来以上の注意観察が必要である事を報告する。

 現在、第一回目の結審を控え通常以上に精神状態が不安定になっており、その事から危惧される事は自傷行為であると思われる。特に夜勤交代者は、厳重に注意観察をするよう申し送るべし。』

 一旦、そこで自分の署名をしようとした栗田は、思い直して、

『一度、当人と個別に面談する必要あり。』

 と書き足した。