取り調べ室から留置場に戻ると、丁度夕食の時間になっていた。

 留置場の食事は昔に比べて格段に改善されたとはいえ、内容は特別良いと言えるものでは無い。が、ホームレスなんかにすれば、三度まともな飯が食えるだけでも天国と言える。

「拘置所の方が飯はまだ良いし、それ以上に刑務所の方が良いんだ。特に○○刑務所の飯は最高だ」

 罪の反省より先に、自分がこれから送られる拘置所や刑務所の食事に思いを馳せるのが、大概の被疑者達の偽ざる思いだ。

 手錠を外され、腰縄を解かれて留置部屋に入る。

 自分の弁当と、プラスチックの椀に満たされた白湯を手にして部屋に入った時、留置場の入口で騒ぐ声が聞こえた。

 新入りのようだ。

 留置担当の者とのやり取りを聞いていると、どうも初心者のようだ。

「ぼ、僕は何もしてない!どうして留置場に入れられなければならないんだ!」

「こら、そう騒ぐな。お前の言い分は、取り調べの時に言え」

「べ、弁護士を呼んで下さい!」

「連絡はするから、先ずは大人しくして部屋に入りなさい。此処には他にも大勢の人間が居るんだから」

「嫌だ!先に弁護士を呼んで下さい。正当な権利を行使させて貰えないんですか?
 そ、それに僕は無実なんだ。何もしてないんだ!」

「久し振りに面白そうな奴が入って来たな」

 同室のヤクザ者が官弁を頬張りながらニヤリとした。

 無味乾燥な毎日の繰り返しを送っている留置場の中では、新入りが一番の関心事になる。

 どんなヤマ(事件)を踏んで来た人間が入って来るのか。

 在り来りの窃盗犯か、それともタタキなどの凶悪犯か、はたまたくすぶったポン中か……

 或は新聞ネタになっている大物か……

 ヤクザの大物が入って来た時は、その対象外に置かれるが、大概の者が入った早々はそういう目で見られる。

「ありゃ痴漢か強猥のくちだな」

 ヤクザ者が皆に言い聞かせるように呟いた。

 一見、無関心さを装う者も居るが、間違い無く留置場に入っている全員の関心は入口で騒いでいる新入りに注がれている。

 留置担当係りが鍵を開けた。

「この部屋に新入りを入れるから、宜しく頼むな」

 ヤクザ者がニヤリとした。