噂には保護房というものの存在は知っていたが、まさか自分がそのような部屋に入れられるとは思いもよらなかった。

 膝を丸め、騒ぎ疲れた私はまんじりともせずラバー製の畳に横たわった。

 部屋全体に染み込んだ臭いは、これ迄嗅いだ事の無いものであった。

 天井を見上げると、監視カメラがあった。カメラのレンズがじっとこっちを見ている。

 突然、涙が出始めた。

 そのうち呻くような泣き方になり、私は死にたい気分になっていた。この部屋にそういう気持ちにさせる何かが宿っていたのだろうか。

 死にたい……

 そう思いながらも、身体は動かない。

 元々、自殺といった行為に対し、私は否定的な考えを持っていた。

 人一倍、死というものに恐怖感を持っていたからかも知れない。それでいながら、この時の私は確かに死にたいと思っていた。

 実際には何も行動は起こさなかったが、後日、本当にそういう行動を取るようになるとは、この時は思ってもいなかった。

 朝になった。

 一般舎房と違い、起床の放送など入らない。

 扉にある小さな監視窓から刑務官が起こしに来た。

「木山、点検をするから、起きて真ん中に座っていろ」

 寝不足で朦朧とした意識のまま、私は身体を起こし、壁にもたれた。

 直ぐに点検が始まったが、私は無言のまま壁をただ見つめるだけだった。

 食器口から朝食が入れられた。

 ただでさえ不味い食事なのに、こんな部屋では余計に食欲など湧かない。

 一口も食さず、そのまま残飯にした。

 30分も経っただろうか。

 昨日の刑務官が扉を開け、

「出ろ」

 と言って来た。

 ふらつく足取りで後に付いて行く。

 取調室に入れられ、暫く待たされた。

「木山、今度はマルセイの真似か?」

 声の主はマムシだった。

 マルセイ

 精神異常者を意味する隠語。

「精神鑑定受けて助かろうって魂胆はよしとくんだな。見え透いた手を使ったって、判るもんは判るんだ」

 私は何も喋らず、ただじっとしていた。