第一回目の公判は、呆気ない位に短い時間で終わった。その事は、これ迄の経験からも予想は出来た。

 公判終了後に、弁護士面会でもあるかなと期待したが、やる気の無い国選弁護士ではそれを望むのは無理というものだ。

 夕方五時近くになって、漸く拘置所に戻った。

 独居房に戻り、冷め切った麦飯と粉っぽいシチュー、それに僅かばかりの漬物の遅い夕食を無理矢理腹に詰め込んだ。

 食欲をわざと失くさせるような食事もそこそこにし、さっさと横になる事にした。

 壁がコンコンと叩かれた。

 隣人からだ。

 トイレに座る。

 窓を開け、声が届き易いようにすると、

「木山さん、どうでした?」

 と、隣人が早速話し掛けて来た。

「今日は罪状認否だけでしたから……」

「実は、僕の担当弁護士に木山さんの事を話したんです。何か興味を持ってくれたみたいですよ。ひょっとしたら近いうちに、浅野という弁護士か、人権擁護団体の誰かが面会に来ると思います」

「すみません……」

 礼の言葉の後を続けようかと考えているうちに、隣の窓が閉まる音がした。

「こらっ!何を話してる!」

 いきなり怒声が響き、ガチャガチャと扉の鍵を開ける音がした。

 隣人の部屋から悲鳴のような声が聞こえて来た。


「他の担当は知らんが、俺の目はごまかされんぞっ!こっちへ来いっ!来るんだっ!」

「な、何をするんだ……」

 ドスン、バタンという何かを打ち付ける音が鈍く壁越しに伝わって来た。

「何時も言ってるだろうが!遵守事項も守れんで何が無実だっ!おら、立つんだよ!」

 声の主はマムシだった。