こういう場所の夕食はやたらと早い。夕方の四時ともなると、

「はいとーう!」

 という衛生夫の号令とともに、各房に夕食が配られる。

 五時を回れば仮就寝といって布団を敷いて横になる事が出来る。

 ラジオ放送が入り、何時も通りに横になっていると、若い夜勤の刑務官の怒鳴り声が聞こえて来た。

 隣からだ。

 暫くすると、隣人の声が聞こえて来た。若い刑務官に何か反論しているようだ。その声に聞き覚えがあった。廊下側の食器口に身を寄せ、隣のやり取りに聞耳を立てた。

「誰が時間外の運動を許可した。注意事項に決められた時間以外に運動はしていけないと書いてあるだろう」

「何がいけないんですか。誰にも迷惑を掛けてる訳じゃない。それに此処は独居なんだから多少は大目に見たらどうですか。警察の留置場じゃ何も言われませんでしたよ」

「留置場と拘置所は違うんだ。規則は規則として、君達はそれを守らなければならない義務があるんだ」

 二十歳そこそこの若い刑務官に、君呼ばわりされたのが隣人の勘に障ったのか、それ迄以上に頑な態度と言葉使いで反抗し始めた。

「俺は無実でこんな所に入れられた人間だ!
 人権を無視したような扱いを受けるいわれは無い!」

 廊下いっぱいに響く隣人の声……

 突然、壁に何かを打ち付ける音がした。

「よせっ!止めるんだっ!」

 壁から伝わる音が何度も繰り返された。若い刑務官が近くの非常ベルを押した。一分とせず、何人もの厳つい刑務官がやって来た。

 独房の扉を開ける重々しい音と共に、刑務官達の怒声が聞こえて来た。暫くすると、何人かに抱き抱えられた隣人が連れ出された。

 私の舎房の前を通り過ぎた隣人は、額から血を流していた。

 一瞬しか見えなかったが、その横顔は、留置場で何度か見たあの男であった。