私は一日も早く東京拘置所へ移送して貰えるよう頼んだ。

 このまま此処にいたら私は……

 基本的には起訴された人間は拘置所へ移送される。

 だが、年々増え続ける犯罪者の数に、収容すべき施設が絶対的に不足している事が原因で、なかなか移送がはかどらない。そして、警察はその事をいい事にし、不当に取調べをする。

 手元に容疑者を置いておけば、好きな時に好きなだけ容疑者の取調べを行える。

 検事調べの段階で容疑を否認した日から、私へ対する警察の取調べは苛烈を極めた。

 まともに食事をさせて貰えず、朝早くから、夜は就寝時間を過ぎた夜中近く迄続いた。体力よりも気力が持ちそうに無かった。

 私の国選弁護人が決まり、初めて接見に来てくれた日を今でもハッキリと覚えている。

 何度目かの検事調べを終えて、夕方に検察庁から単独で戻って来た時、その弁護人は訪れた。

 警察の面会室に現れた弁護人は、まだ三十代半ば程の若い弁護人だった。

「貴方の弁護を務める事になりました和泉といいます」

 自分の名前を名乗って、和泉は暫く押し黙った。

 沈黙に耐え切れなくなり、私は自ら口を開いた。

「……やってないんです。私は窃盗事件の現行犯で逮捕されましたが、殺人や強盗はやってません!」

 弁護人の和泉は、分厚い書類をそそくさとめくりながら、

「この供述調書に書かれている事は?」

「け、刑事達に強要されて無理矢理署名捺印させられたんです!」

「……」

 ジーッと私の目を見つめる和泉。

 私も目をそらさず見つめ返した。

「このままでは、私は再び自白を強要されてしまう。検事調べで、最初の自供は無理矢理にそう書かされたものだと言った日から、とにかく毎日毎晩……」

 その先の言葉が出て来なかった。

 代わりに私の両目から涙が流れて来た。