「今後の裁判についてだが、私が直接立とうと思う」

「僕はお払い箱ですか?」

「慌てないで最後迄聞きなさい。弁護方針は、警察側の自白強要の一点に搾り、調書そのものの証拠能力無しという線で行く。木山当人のアリバイ云々であるとか、調書での細かい矛盾点を突くといったこれ迄の戦い方は捨てる」

「現状を考えたらそれがベストかな」

「そうね」

 頷き合う高橋と野間口。

 森山は無表情のまま自分のグラスを煽った。

「新たな容疑者として、別件で逮捕された間中邦彦の今後にもよるのだが、場合によっては、高橋君か野間口君のどちらかに、間中邦彦の弁護をやって貰う事になる」

「間中の!?」

「そうだ。そうする事で、我々はどう転んでもいずれかで勝ちを収められるようにするんだ」

「ですが、もし二人が実は共犯者だったりしたらどうされるのですか?」

「その為にも、間中の調べの結果がはっきりする迄は、木山の裁判は自白強要の一点だけに絞るという訳だ。間中の結果次第でどう転んでもいいようにな」

「自白強要だけで争う分には、例え木山が犯人であったとしてもだ、犯罪そのものを争う訳では無いからうちの体面は保てる……」

「まあ、そういう事だ」

「そういうもんなんですか……」

 それ迄無言だった森山が小さく言い放った。

「弁護士の仕事って、そんなもんなんですか!」

「森山君、声が大きいわよ……」

「声を低くしなきゃ話せないようなやましい事なんですか?」

「酔ってんのか?」

「酔う?僕がですか?こんな席の酒で酔えたら幸せですよ。僕は高橋さんや野間口さんのように、簡単に割り切れる脳を持ってませんから。先生、先生は事件の真実を追求するというお気持ちは無いんですか?
 依頼人が無罪を主張していた。しかし現実にはかなり黒に近い灰色だった。となれば、僕らは身を引くのが本筋でしょ!?」

 浅野に詰め寄る森山を他の二人が止めようとした。

 浅野はそれを制し、落ち着き払った態度で答え始めた。