「森山君、今夜空いてるかね?」

 珍しく浅野が誘って来た。

「ええ、まあ……」

 気乗りしてなさそうな返事だったが、浅野は気にするふうも見せず、

「じゃあ、仕事が片付いたら『椿屋』で飯でも」

「判りました」

 浅野が誘って来た理由は、おおよそ判っている。

 木山の裁判に関しての今後の事についてなのだろう。

 書類の整理に幾らか手間どったせいで、タイムカードを押した時には7時近くになっていた。

 指定されていた『椿屋』に行くと、浅野だけではなく、高橋と野間口妙子も来ていた。

「こうして四人揃って仕事帰りにというのは何時以来だ?」

「僕の歓迎会以来です」

「そんなになるか?」

「ええ。僕らが高橋さんを誘っても、何時も用があるからって」

「赤坂の綺麗な人の所に行くのが忙しいとかってね」

「おいおい、二人して浅野先生の前でそんな事を言わなくてもいいじゃないか」

 軽い笑いが四人の間に生まれはしたが、それは何処か作り物めいた感じがした。

 簡単なコース料理とアルコールを注文し、充たされたグラスで乾杯する。

 当たり障りの無い会話ばかりが続き、いい加減退屈し始めて来た森山は、

「先生、わざわざこうして僕らを誘ったのは何かあるんですよね?」

 といきなり切り出した。

 高橋と野間口妙子もその事を感じていたから、下らない冗談で浮かべていた笑顔を消し、浅野の方を見た。

「うん。皆と話したい事があってね」

「木山の事ですね?」

 浅野の言葉が終わらないうちに、森山が身を乗り出した。