間中邦彦逮捕の知らせを受けた森山は、複雑な思いでその一報を聞いた。

 一ヶ月前ならば、その知らせを耳にし、きっと小躍りした筈だ。

 しかし、冤罪を叫んでいた木山本人の血痕らしきものが現場に残されていた事実がある以上、今は喜べない。

 それに、DNA鑑定の結果を直接本人に伝えた時に見せた、木山の取り乱しようは、森山に木山への疑問を抱かせてしまった。

「真実をきちんと話して下さい!」

 そう言って迫った森山に、木山は顔面を真っ赤にし、

「お、俺を疑うのか?そんなんだな?結局はいつもこうなるんだ!」

 そう叫びだし、喚き続けた。

 野間口妙子も木山のその姿を見て、冷ややかな視線を送っている。

 東京拘置所からの帰り、彼女は森山に、

「弁護を続ける意思があるなら、仮に木山が犯人だったとしても、此処迄無罪を主張して来たんだから、そのまま戦うべきよ。その覚悟はある?」

 と聞いて来た。

 森山は判らないと答えた。

 弁護士である以上、依頼人の利益を守るという役目があるという事は判っている。

 そこに真実が一片も無く、虚偽で塗り固められたものばかりであっても……

 そうなのか?

 そんなのが弁護士の仕事なのか?

 野間口さん、あんたはどう思うんだ?

 出かかったその言葉を、森山は飲み込んだ。