憔悴仕切った間中の両腕に手錠をし、腰紐を回す。

 紐を結び、余った先を自分の右拳にぐるぐると巻く。

 間中の背中を押し、廊下を歩く。

 刑事部屋から出て来た何人かの捜査員達が、すれ違いながら、本間に無言の激励を送った。

 練馬署の何倍も広い刑事部屋に入り、準備した取調室へと間中を促す。

 引っ切り無しに鳴る電話の音。

 数分置きに放送されるキンパイ(緊急配備)。

 あちこちの取調室から聞こえて来る、容疑者と刑事達のやり取り。

 動き回る捜査員達の足音。

 それらの音が、この時は耳に入らなかった。

 まるで、部屋全体が無声映画のシーンのように感じられた。

「本間チャン、本間チャン……」

「あっ!?は、はい」

「焦り過ぎるなよ。じっくり時間掛けて話しを聞いてやれ。こっちから余り突かん方が良い」

「判りました」

 キソウの先輩刑事がそっと耳打ちをしてくれ、本間は我に帰った。

 取調室に入る。

 机を挟んで奥の椅子に間中を座らせ、

「煙草、吸うか?」

 と聞く。

 無言のまま首を横に振る間中。

「何日も飯食ってなかっただろ、腹、減ってんじゃないのか?」

 同じように首を振る。

 本間も座り、自分は煙草をくわえた。

 ライターを自分の机に置き放しだったと気付き、くわえた煙草を箱に戻そうとした。

「刑事さん、沢山吸うから、丁度いい禁煙になる……」

 突然、間中が話し掛けて来た。

 やや伏し目がちの顔には、昨日迄の哀しみの色は微塵も無く、何処か晴れやかなようにも見えた。

 一緒に取調室に居た相方の刑事が立ち上がり、

「落ちたな……」

 と一言漏らし、刑事部屋へ紙とボールペンを取りに行った。