頭の中に浮かんで来たのは、白い色で外壁が塗られた高層マンションであった。ちょっとばかり古い造りで、今時流行りそうもない雰囲気を漂わせている。

 後になって思い返してみても、何故、自分があんな事を想像していたのかが判らない。

「どうやって入ったか、説明してくれないか?」

 説明……

 何を?

 ああ、事件の事か……

 私の頭の中で、何時間か前に見せられた被害者の凄惨な写真が浮かんで来た。

 様々な妄想が蠢く。

 俺が……俺が殺した……

「殺しちゃったんですか?……」

「うん?自分がやった事だろうが。どうだ、思い出して来たんなら、全部話してやった事を償わなきゃな。
 話を戻すぞ。 被害者の部屋に忍び込んだ経緯だが……」

「さあ……」

「忘れちまったのか?」

「……」

「ベランダから侵入したんじゃないのか?
 お前の過去の手口からすれば、ベランダ側の窓のガラスを割り、そして侵入する。 この時もそうだったんじゃないのか? 」

「……はい」

 頷いた私を見て刑事は直ぐ様キーボードを叩き文章にして行く。

「ベランダにはどうやって?」

「……」

「外から入るにしても、被害者の部屋は三階だ。 下からよじ登ったのか、それとも上からロープでも使って降りて来たのか、どっちだったんだ?」

 私の想像はよじ登っている姿を映し出していた。

「登った……と思う。」

「登ったのか。方法は?」

「よじ登った……」

「手摺とか、壁をつたってという事だな?」

「……はい」

 再びカタカタとキーボードが叩かれる。

 眠りたい……

 体を横にしたい……

 休ませてくれ……

 喉元迄出かかった言葉が、体の中で行き場を探し、彷徨っていた。

 それから数時間後、私は調書に署名していた。