DNA鑑定の結果がもたらした衝撃は、弁護側以上に、阿久根の方が大きかった。

『サンプルとの合致パターン……A』

 現場から採取された微量の血痕と合致。

 あの日、野間口妙子に冗談で言った、安っぽいミステリー小説のような展開になってしまった。

 しかし、これは一体どういう事なのだろうか。

 やはり木山が犯人なのか?

 ならば間中は?

 それとも……

 阿久根は間中と木山に接点があるかを調べてみる事にした。

 同じ現場に二人のDNAと同一の遺留物が発見された以上、この二人が共犯者である可能性が生じて来たからである。

 阿久根は、駆け出しの頃に先輩刑事から言われた言葉を思い出した。

『捜査が行き詰まったら、もう一度最初から洗い直すんだ。
 昔から、現場千回って言ってな、見落としていないつもりでも、千回現場に足を運べば、何かしら新しい発見があるもんなんだ。もう何も出ないなんて諦めちゃならねえ。
 刑事という仕事は、しつこい位に諦めの悪い性格に自分を変えるところから始まるんだ。お百度参りは何も神社だけに限らねえぞ』

 初動捜査の時点で、余りにも簡単に容疑者が割り出されてしまった事で、刑事としての視野が狭くなってはいなかっただろうか。

 どんな瑣末な疑問でも、それを一つ一つ地道に潰して行かなければならない筈なのに、間中邦彦にばかり目が行ってなかっただろうか。

 阿久根は全ての捜査資料を洗い直す事にした。

 もう署内で監視がどうのなどと考えていられなかった。

『俺達刑事はな、殺されたホトケさんの無念を背負うのが仕事だ。どんなにその無念が重かろうが、俺達は途中でそれを放り出しちゃならねえ。膝を着く事もだ。どんな事があっても、ホシを挙げるまで背負い続けるんだ』

 久しく忘れてた先輩刑事の言葉が、再び阿久根の脳裏に浮かんで来た。