「はい、浅野弁護士事務所ですが……」

(お忙しいところ誠に申し訳ありません。私は練馬警察署の阿久根と申します。恐縮ですが、木山悟の弁護を担当されていらっしゃる方は、今そちらにいらっしゃいますでしょか?)

「木山の担当弁護士でしたら僕ですが……」

 森山は、電話の相手が練馬警察署の者と名乗った時、自分が相手の言葉を聞き違えたかと思った。

 しかし、それも一瞬で、直ぐに光が丘事件の捜査本部だった警察署だと思い出した。

(お電話で申し訳ありませんが、一つお聞きしたい事がありまして)

 森山は、阿久根と名乗った男に答えるべきかどうかを考えた。

 しばし沈黙の時間が流れた。

 森山の沈黙を阿久根は拒否しているのだろうと思い、

(私は、光が丘で事件が起きた当時、捜査を担当していた刑事です。もし、お電話でお話しが難しいのであれば、直接お会いしても構いませんが……)

 阿久根の電話から受ける物腰には、刑事特有の強引さが窺えた。

 その事が、一層森山を慎重にさせた。

「仮にお会いしたとしても、何もお話ししないかも知れませんよ。僕は木山の弁護人ですから、依頼人の利益を守る守秘義務があります。それでも宜しければ、別にお会いするのは構いませんが」

(結構です。では、これからは如何でしょうか?)

「今からですか?」

(はい。長くお時間は取らせません)

「判りました。ただ、今直ぐと言われましても、まだ仕事が残ってますから、後一時間ばかりかかりますけど」

(でしたら、事務所の近く迄、私が出向きますので、練馬からぼちぼち行けば、丁度一時間後位には着くでしょうから)

 結局、阿久根に押し切られたような形で、森山は会う事を承諾した。