次の公判準備に向けて、森山は何度も分厚いノートを確認した。

 木山悟の裁判用に使っているノートだが、既に二冊目になっている。

 前回の失敗を挽回する事に、森山の頭は一杯になっていた。

 あの日以来、野間口妙子とは殆ど会話をしていない。

 浅野からは細々と指摘され、揚句の果てには高橋弁護士にまで代わって貰ったらと言われる始末。

 どんな事をしても自分が最後迄やるんだ……

 森山の意識には、木山の無実を晴らす事以上に、自らの弁護士としての存在を掛けるといった思いが強くなっていた。

 それは、面会室で不安げな眼差しを寄越す木山の態度に対しての反発も含まれていた。

 見返す。

 その対象者に、木山悟迄含んでしまった。

 次回の公判では、自白強要をはっきりとさせる弁論を展開するつもりだ。

 木山への質問。

 木山の答え方。

 検察側からの反論の予測。

 その為の備え。

 何度もノートに書いては消しを繰り返した。

 事務所の時計は、夕方の6時を回っていた。

 経理の責任者である羽村は30分前に帰っているし、浅野は午後に事務所を出てそのまま直帰だ。

 野間口妙子もつい今さっき、高橋弁護士と帰っている。

 他の事務員達は、それ以上に早く帰ってるから、広い事務所の中は森山一人だけになっていた。

 珈琲でも飲もうと思い、サーバーの方へと立ち上がったと同時に、電話が鳴った。