やっていないと言い続けても、警察側が作る調書は私が真犯人として書かれてしまう。

 刑事が言うように、否認のまま状況証拠だけで裁判になれば、長い年月を争わなければならなくなる。

 頼るべき身寄りの無い五十近い男に、救いの手を差し延べてくれる人間などこの世には居ない。ましてや、私は前科者だ。

 弁護士にしたところで、国選では何処迄本気で闘ってくれるかどうか……

 無罪を誰も信じてくれない……

 無実を争い、先の見えない不毛な闘いを続けるよりも、自分が犯人ですと申し出て十年後の未来を得る方が……

 気持ちが揺らぐ。

 精神的苦痛もさる事ながら、ずっと座らされたままでいると、想像以上に肉体的苦痛が襲って来る。

 喉が乾き、空腹も重なり、まともな思考能力が欠け始めて来た。 刑事達から受ける圧迫感は時間を追う毎に大きくなって行く。 途中で何人もの見知らぬ刑事が部屋に入って来て私に一蔑をくれて行く。

 限界が近付いていた。

 今は何時だ?

 朦朧とし始めた意識に、刑事の囁きが入り込んで来る。

「……で、その日は朝から何も食べてなく、当ても無くさまようように歩き回っていたんだな?」

「……はい」

 何時しか私は刑事の誘導されるままに返事をしていた。