呼び出し音が鳴ったか鳴らないうちに繋がった。

(なあんだ、メールくれって言ったアクさんから掛かって来るとは。やっぱり俺達世代にメールは七面倒くさえやな)

「それより健三さん、あの結果は間違い無いんだね?」

(急ぎだったから現段階では完全とは言えん。もう少し細かい所をチェックするのに、もう二、三日掛かるが、俺の見た所じゃ99.99……面倒くせえ、この後9が百個ばかり並ぶ位の確率だろうな)

「という事は……」

(医学上から見れば、100%てえやつだ)

「そうか、Aじゃなかったのか……」

(なんだか期待外れの結果のようだね。たまには俺の読みが外れる時もあるから、細かい分析結果が出たら送るよ)

「手数掛けたな。わざわざありがとう」

(あいよ。じゃあな)

 ケータイを切るのも忘れる程、阿久根は暫く考え込んでいた。

 現場採取のDNAデータは、はっきりと特定出来るものが、4タイプあった。

 一つが被害者本人のもの。

 それ以外のもので、微量の血痕から採取したDNAがA。

 B1は、被害者の指の爪に微かに付着していた皮膚片。

 B2は毛髪。

 いずれもAの血痕とは別なDNAである。

 この三つのDNAサンプルが、採取された遺留物の中で、一番はっきりと特定出来るものであった。

 特に、Aに関しては、事件直後に於ける不審者の目撃情報から判断し、容疑者自身も身体の何処かを怪我した可能性があると見られ、これが加害者の血痕だろうと推測されていた。

 殺傷事件等の際、加害者側も刃物を手にした指等を傷付ける事が少なくない。ただ、当初から鑑識課では血痕のAサンプルと、被害者の爪の間に付着していた皮膚片B1サンプルのDNAが違う点に首を傾げていた。

 爪の間に本人の物とは違う皮膚片が付着するという事は、通常余り考えられない。

 この場合は、加害者と揉み合いになった際に、何らかの形で付着したものと推測するのが現場での見識である。

 それでも、間中のDNAと、現場遺留物の毛髪が一致した事で、阿久根はそれらの疑念を一旦忘れようとした。