間中の動向に特別な変化は見られなかった。

 但し、例のビデオボックスに週に二、三度現れる以外の行動パターン迄は、まだ完全に把握仕切れていなかった。

 まだ現段階では任意同行を求める訳にも行かない。下手に動いては、取り逃がす恐れもある。

 そんな中、本間の置き土産が阿久根の手に入った。

 間中本人の精液であった。

 ビデオボックスの店長から連絡が入り、頼まれていた物が入ったと言って来たのだ。

 初め、阿久根は何の事であろうと思い、言われたままその物を取りに行った。

 ビデオボックスに顔を出すと、

「本間さんから頼まれていた物です」

 と言って、コンビニの袋のような物を差し出した。

 一目見て、阿久根は間中の遺留物であろうと察したが、まさかそれが性欲を処理した後の物であるとは思ってもいなかった。

 どうりで店長が、

「刑事さん達も大変ですよね、こんなもんまで証拠にしなきゃならないんですから」

 と、妙な笑顔を見せた訳だ。

 考えてみれば、ビデオボックスの中でアダルトDVDを観ながら自慰行為をするのは、珍しくもなんとも無い。

 特定の人物の遺留物を入手するには、絶好の場所とも言えた。

 本間は、その手筈を頼んでいたのだ。

 署に戻り、早速それを鑑識に回そうと考えたが、思い止まった。

 署内の目を考えたのだ。

 阿久根は、ケータイのメモリーから何人かの心当たりを探した。

「よう、健三さん。済まないが頼まれ事を引き受けてくれないか」

(久し振りに連絡くれたと思ったらお誘いじゃないのかい?)

「埋め合わせはちゃんとするよ」

(で、頼みってえのは?)

「そっちの署で鑑識やってくれねえかな……」

(……練馬じゃまずいブツなんだね?)

「詳しい事情は後で話すよ。今は何も聞かないで欲しいんだ」

(しゃあねえな。アクさんの頼みじゃ)

「ありがとうよ。そっちの署に行くのは案配が悪いから、池袋で落ち合えねえかな」

(判った。一時間で行くよ)