渦中の人となった感の阿久根自身はどうかと言うと、初めこそ筆舌に尽くし難い憤りを抱いたが、暫くするとそれも収まった。

 信頼していた二人をそれこそ両腕をもがれてしまうように引き抜かれ、しかも、その実情を察している。

 二人に辞令が出た時は、辞表を叩き付けてやろうかとも思った程であった。

 それを踏み留まらせたのは、本間からの手紙と、一本のメモリースティックであった。

 手紙には、自分のせいで阿久根が窮地に立たされる事を心配した言葉が繰り返し書かれ、最後に、

『念の為にメモリースティックを別に保管して助かりました。

 間中に関するこれ迄の資料と、光が丘の全捜査資料が入ってます。

 こうなってしまった今、阿久根係長だけが望みです。

 是非とも、被害者の無念を晴らして下さい。』

 この一文で締めくくられていた。

 この数日は、配属されたばかりの二人に掛かり切りだったが、本間と佐藤が途中迄当たっていた事件自体を二係に引き継がせた為、新人の二人をそっちに回した。

 阿久根に比較的自由な時間が出来た。

 災い転じて、ではないが、このタイミングを福とすべく、阿久根は動き始めた。