「そん時だって、おおかた周辺でヒトヤマ踏めそうな家なり店なんかを物色してたんじゃねえのか?
 成増のタタキはその結果だろうが!それにな、タタキとかのヤマ踏んだ奴は、いずれそれ以上のヤマを踏むもんなんだよ!」

「お、憶測だけで決め付けないで下さい!」

「てめえ、一丁前に口答えか!」

「口答えも何も、やってないもの迄やってるなんて言えないじゃないですか!」

 流石に私も感情が高ぶり、声を荒げた。

 刑事の顔が思い切り近付く。

 いきなり胸倉を掴まれた。

 普段から柔道やら剣道とかで鍛えている連中だ。腕っ節が全然違う。喉元に襟を掴んだ刑事の拳が食い込む。部屋に居合わせた他の刑事は、止めるどころか一緒になって罵声を浴びせて来る。若い刑事など、私の髪の毛を掴んで来た。

「木山、否認のまんま調書送って、検事の心証悪くしたら十五年二十年で済むもんが無期になっちまうんだぜ!いや、下手すりゃ死刑だって有り得るんだ!
 それでも構わねえんだったら、きっちり死刑になるような調書巻いてやっからな!」

 何時しか私は涙声になっていた。

「泣いたからって勘弁して貰えると思うなよ」

「勘弁も何も、さっきから何も知らないって言ってるじゃないですか……」

 刑事の手が私の身体から離れる。突然、重力を失ってしまったかのように身体が一旦浮き上がってから椅子にストンと落ちた。

 バランスを崩した私はそのまま椅子と一緒に倒れた。音を立てて床に転がった私を刑事達は冷ややかな目で見るだけだった。

 冷たい視線の中で、私は言いようの無い恐怖感を憶え始めた。

 小刻みに震える足。抑えつけるように両腿を手でぎゅっと掴む。

 時間ばかりが無駄に過ぎて行く。

 意識が薄らぎ出した時、私の耳元で囁きが聞こえて来た。

「このまま否認して罪が重くなるより、自分から自白した形にすれば、自首扱いになってかなり減刑されるんだぞ。そうすりゃあ真面目に刑を務めれば十年ちょっとで娑婆だ。まだまだ人生やり直せるだろう。無期なんかになっちまったら、それこそ獄死しちまうぜ……」

 悪魔の囁きが、この時は天使の囁きに聞こえて来そうだった。