検察側の木山に対する攻撃は、巧妙かつ執拗だった。

 ポイントを木山自ら書いた上申書と当日のアリバイだけに絞り、徒に犯行手口とかの質問をして薮蛇になる事を避けていた。

『被告人に伺いますが、上申書を書いたのは今回の事件が初めてですか?』

『いいえ。何度もあります』

『以前の時と今回とで、上申書を書く上での違いはありましたか?』

『し、質問の意味が余り、よ、良く判らないんですけど……』

『書くに至った手順です』

『それは、一緒、でした……』

『そうですよね。ここに、貴方が書いた上申書があります。それと、取調べを行った森警部補の報告書とを読んでみたのですが、貴方は、担当の刑事から数日前より、現行犯逮捕の事件についての取調べが一段落したら、上申書を書いてくれと言われてましたよね?』

『は、はい』

『以前の時も、やはり事前に書いてくれと言われましたか?』

『はい……』

『何故、上申書を書いてくれと言われるんです?』

『他に事件を起こしていて、それを隠してたりすると、後からばれた時に、やばい、あ、ええと、つ、罪が増えて、刑もな、長くなるから、て、初めての時にそう言われて……』

『うん、言わば貴方の為を思って上申書を書きなさいって言われる訳ですよね。
実際に、これ迄上申書を提出して、罪が重くなった事はありましたか?』

『……い、いいえ』

『上申書というものは、場合によっては自首したのと同じように罪が軽くなる場合もあります。それと、貴方がこれ迄何度か犯して来たような窃盗などの場合、件数が多かった時等、事件そのものを不問扱いされた事もあった筈です』

『はい……』

『この上申書は、貴方が自分で直接書いた物ですよね?』

『で、ですが、光が丘の件は、け、刑事さんの言われるままに……』

『どう言われるままに書いたのですか?』

『やってもいない事でしたから、日付とか、時間とか、建物の事とか……』

『ここに、貴方が平成12年に常習窃盗事件で逮捕された時の取調べ調書と、担当者の報告書があります……』